不自由の創造的超克

不自由の創造的超克
制約からくる不自由さが、<br>自らの創造力をドライブさせてくれる。

ナンバー

01

制約からくる不自由さが、
自らの創造力をドライブさせてくれる。

元木大輔/建築家

建築、インテリア、美術展やテンポラリーなイベントの会場構成、ランドスケープ、そして家具。領域を横断しながら、思いも寄らぬ表現と素材使いに、国内外のメディアから注目を集める建築家、元木大輔。その創作は「不自由さ」から刺激を得てきたという。彼の考える不自由さとはいったいなにか。

聞き手:山田泰巨
撮影:山本康平

2021.07.30

/ Posted on

2021.07.30

/ 聞き手
山田泰巨
/ 撮影
山本康平

モダニズムが取りこぼしてきた解やニッチなニーズを
どのようにデザインや建築の問題として扱えるか。
そこに興味があります。

駒沢通りを中目黒から祐天寺に向かうと、大きなガラスのファサードをもつ古いビルが見えてくる。ショーウインドウのように室内の様子が外から眺められるここが、建築家・元木大輔のオフィスだ。事務所前のバス停に置いた自作のベンチは近隣の住民に愛用される一方、時に彼の仕事場にもなる。グラフィティのように、都市の隙間に潜り込む家具は元木の創作を端的に表すものだ。元木は自らのプロジェクトでたびたび、家具をはじめとするオリジナルの造作物を製作する。それらの多くは一点もので、発表のたびに国内外のデザインメディアが取り上げる。

元木の事務所前にあるバス停に自作のベンチを置く。バス停など、街には誰の好意かわからないストリートファニチャーが置かれることがままある。そんな都市への介入を自ら実践した。

元木は独立時、東京のデザインイベントで自作のソファを発表した。いくつものメーカーから製品化の声がかかったものの、実現には至らなかった。彼らは、価格を抑え、売れる製品を目指さねばならないと口を揃えた。元木は「価格を抑えることは理解できましたが、売れるものを目指すべきという指摘には違和感を覚えました」と振り返る。

高価な素材の家具が高価な家具なのか?
大量の既製品から素材を見つけ、質と納期を担保する。
批評性をもって材料や行為を考えることが重要だ。

世の中にはマスプロダクトの家具が溢れかえるが、それらはケーススタディとして参考になる点は多い。元木はメーカーの「価格を抑える」というアドバイスを参考に、製作コストへ目を向けた。コストの主な要素は材料費と人件費。材料費を抑え、製作工程を簡易にすれば製品の価格を抑えることができると考えた。

スポンジを使ったり、OAフロア用のサポートフロートを使って収納や棚をつくる。後者は京都国立近代博物館を皮切りに熊本、東京、ドイツ・ボンと巡回している展覧会「ドレス・コード?─着る人たちのゲーム」の会場構成でも使用したマテリアル。また工事現場でよく見られる単管パイプには金メッキを施して、本来の粗野な表情を一変させた。

「たとえば円形の鏡を求められても、鏡を円形に切り出すより、大量の既製品から円形の鏡面素材を見つけることで、質も安定するし、短納期にも対応できます。いわゆる素材だけを素材として扱うのではなく、すでに製品化されたものや眼の前にあるものすべてを等価に扱うことで、新しい価値や機能を与えることができます。ものにあふれている現在において新しく作る必要があるのか、というところまで立ち返って考えることが重要ではないでしょうか」

元木のアトリエに置かれるソファは、以前にあるイベント会場のためにデザインしたものだ。ソファの中身であるウレタンをエアパッキンや梱包用ラップでくるみ、ベルトで停めるだけという即興的な手法で制作した。短納期で、引き渡しまでわずか3日というタイミングで思いついたという。会場はアーティストが滞在制作する現場のため、たまたまそこにあった素材を取り入れた。破れたら包み直し、より良い材があればカバーを変えていった。

ナイキの展示で使用したソファ。ソファ型にカットしたウレタンをラッシングベルトで留めて成立させている。ウレタンにはエアパッキンを巻く。ほかにもベルトは元木の家具で重要な役割を果たす。

完全に自由なクリエーションより、
不自由さやルールがあることで、
クリエーションは飛躍的にドライブする。
ルールは縛られるものでなく、使いこなすもの。

「瞬発的に考えたものが大きな反響を得ました。短納期という不自由さから生まれたこのソファがもつ意味や魅力を考えたのはそれからですね。与条件から簡単に作らざるを得なくて、ベルトで締め上げたわけですが、分解できることはメンテナンス性も高く、求められる機能が変わった場合にも対応ができる。建築でも天井をスケルトンのままで仕上げることが多いのですが、同じくメンテナンスも簡単だし、テナントが入れ替わっても配線などがわかりやすい。出来上がりは完成ではなく、その後の変化を許容できるような質をもったものに魅力を感じます」

駒沢通りに面した元木の事務所。建物の縁部分に土を盛って植物を育てる。建物の内外が、透明性による視点の交差や植物の存在などで曖昧になっている。

これまで、「そもそも自由だと思ったことがない」と元木はいう。

「建築家の塚本由晴さんの論文から引用ですが、サッカーは手が使えないという不自由さがあるから面白い。手を使えない、とは冷静に考えるとめちゃくちゃなルールですが、そのシンプルな制約がファンタスティックなプレイにつながる。実は不自由さを背景に、クリエーションは縛られることなく飛躍的にドライブします。ルールを逆手に、自分に制約を設けることで、思いも寄らないものをつくるきっかけになると考えても良いのではないでしょうか」

元木は、不自由さや問題の解き方にこそクリエイティブが宿ると考える。その繰り返しが鍛錬となって、作品の精度はあがってきたはずだと自らの活動を振り返る。最近もソファのアイデアをきっかけに、アクリル板をベルトで締め上げて構造を成立させる新作のテーブルとシェルフを発表したばかりだ。

「出来上がったものを見るとベルトで簡単に固定しているように見えますが、ここまでにかなりの回数のスタディを重ねています。締め上げるのはどんどん上手くなっていますね(笑)」

そう笑う元木のクリエーションは、しなやかで大胆。私たちのイマジネーションを刺激していく。

元木大輔/建築家

DDAA/DDAA LAB代表。CEKAI所属。Mistletoe Community。シェアスペースhappa運営。武蔵野美術大学非常勤講師。1981年埼玉県生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、スキーマ建築計画勤務。2010年、建築、都市、ランドスケープ、インテリア、プロダクト、ブランディング、コンセプトメイクあるいはそれらの多分野にまたがるプロジェクトを建築的な思考を軸に活動するデザインスタジオDaisuke Motogi Architecture (現DDAA)設立。2019年、コレクティブ・インパクト・コミュニテイーを標榜し、スタートアップの支援を行うMistletoeと共に、実験的なデザインとリサーチのための組織DDAA LABを設立。2021年第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展出展。